単細胞性シアノバクテリアは概日リズムの知られる最も単純な生物で、私たちは時計遺伝子を発見したり、その作用機構を世界に先駆けて解明してきたりきました。とくに、世界で初めて生化学的に試験管の中で24時間振動する酵素反応系を作ったことは大きな話題となり、新たなフィールドを切り拓くものとして注目を集めました。
しかし、概日システムは全体としてみるとまだまだ謎が多く、振動酵素系が大規模な(ゲノムワイドの)遺伝子発現リズムを駆動するメカニズムや、光へのリセット機構などの解明は進んでいません。当研究室では、構成生物学、顕微観測系、微弱発光レポーター解析、分子遺伝学、生化学、ゲノム学などを駆使しながら、こうしたフロンティアの解明に日々取り組んでいます。
複雑な生きもののカタチは、どうやってひとりでに生じるのでしょう? その基本は、1種類の細胞が増えながら、違う細胞に変化することができること(分化)、そしてそれらの細胞が適切に位置情報を得ること(パターン形成)です。この生物学のもっとも重要な問題を解くためにも、単純な生物を使ったエレガントで先進的な解析が役に立つと考えています。
シアノバクテリアの中には,多細胞性のシアノバクテリアがいます(下図参照)。このバクテリアは、窒素欠乏下でヘテロシストというやや大きめの細胞を、15-20細胞に1つの間隔で分化します。この特徴的な空間パターン形成がどのようにしてできるのかを、マイクロデバイス工学、遺伝子工学、理論生物学、顕微観察操作技術を総動員しながら研究しています。
さらに、これは下記のアート・プロジェクトとも関わっています。運動性シアノバクテリアの極めて多様で興味深いコロニー形成パターンに関しても、アート・研究の両面から取り組んでいます。
「生命」は自然科学的に定義された概念ではないため、科学的に解析しやすい面だけではなく、そこからこぼれてしまう側面を同時に持っています。そこで、自然科学的な研究対象としての「生命」と、より広義の広がりを持つ「生命」の関係性について、多角的な立場で検討することを同時並行で行おうとしています。特に生物リズム・構成生物学に関する科学史・文化誌の研究、先端生命科学とアートの境界についての調査、バイオメディア(生物・細胞・生体高分子などの生体関連素材や、現代生物学の知見・技術)を用いた新しい芸術表現の創出などといった課題に取り組んでいます。